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新人証券マン

私は長い長い学生生活の最後に、就職活動という腹の読みあい運動をして、その中で簡単にOKをだしてくれた証券会社に勤めることになる。大学での4年間は、2流大学だけあって、授業の内容ははっきりいわせてもらうと、いまいまでの詰め込み教育とたいしてかわりなく意味がなかった。こう書くと親は泣くかもしれないが、大学生でなければできなかったことも多いわけで、それなりの価値は在ったと思う。
 当然、将来の夢はあっても、仕事の夢はなく、仕事を探しはじめてたまたまたどり着いたのが証券会社だっただけだ。あえて理由があるとすれば、全くわからない世界を覗いてみたかった、というくらいしかないだらう。入社してみて分かったのだが、割とこの手の人間は少なくなく全体の8割、金融の世界になぜか憧れ、規模こそ違い、とにかく希望の証券業界に夢を持ち、目が輝いていたのが2割といったところだろう。
 しかし、入ってみて新聞を読むようになり、経済に興味がわいてくるとこの業界の現状が見えてきた。バブルなんてなんのことか全くわからなかったのが、理解してみるとまさしくこの世界だったのだ。いいことなんてなにもない。営業で民家を一件一件まわっても、
 「ーーーーのーーさんが儲かるいったから買ったのに、今じゃゴミよ」
 「以前は2・3日で勝負がついたのに、今は全然動かないじゃない」
 「保証してくれるなら、買ってもいいよ、どっかの政治家みたいに」
 「そんなに自信があるなら、自分で買えばいいじゃないか」
 20件にこうゆう反応をしてくれる人が、1件あればいい。
 しかし、こういう事を言ってくれる人たちが、たいがいお客さんになってくれる人たちだ。話を聞いてくれないから、わざと蒸し暑い日に汗をだらだら流して、挨拶だけしに通ったりした。その内、世間話でもできるような関係になれば成功だ。苦労してつくったお客さんだけに、私も自分のお金のつもりで、真剣に考え儲かるようつとめた。この時から、株にめざめ、なんのニュースでも株に関連して、物事を考えるようななる。
 例えば、例年にない蒸し暑い夏だったので、クーラーの部品を造っている小さい会社で上場している株を探したり、プレステをソニーがだしたのでさっそくデモを遊んでみて、おもしろいのでソニーの株の値を追いかけたりした。すべてが株の動く要素に成り得た。もちろん動かなかったりもする。しかし、それを考えるのがおもしろいのである。
 自分のお金ならまだしも、仕事だと現実はそう甘くない。あるお客さんは相性がよく、結構儲かっている。あるお客さんは同じくらい大切にしているのに、どうしても損ばっかり。だから、お客は増えても、同じくらい去っていく。営業で新規開拓をしない限りは、資金は細っていくばかりだ。1日500件、これが電話営業のノルマだった。実際はこの半分がいいとこなのだが、報告ではこれが400件とか350件とかになる。
 成績は常に同期で上位を走っていた。裏知識も知恵もない新人営業マンのひたむきな努力だけを武器に事が進んだ。しかし、時がたつにつれ、飽きもしてくるし、さぼりもするようになる。友達のアパートで寝てたり、競艇に通ったり、映画館をはしごしたりして夕方7時までの時間をつぶすようになってくる。23才にまでなって、いったい何をしてるんだろうと悩んだりする。こんな事のために、あんな長い学生生活をおくったのか?
 いろんな先輩と毎週2・3回は、飲みにでたが、みんな疲れているし、将来を悩んでいた。3年後・10年後の自分の姿をみているようだった。このままではダメだと思った。
 辞表を出した。あっさり許可された。その1カ月後に、この会社は自己資本比率が大蔵省の定める基準を満たせず、営業停止処分となった。


                     

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